IC-705と電源

アマチュア無線への復活のきっかけのひとつがIC-705発売のニュースだったわけですが,

IC-705 | 製品情報 | アイコム株式会社

昨年7月にめでたく入手しました.家での利用,移動運用での利用などしています.今回はその電源周りをどうしているかを記します.


据え置き電源に ALINCO DM-330MV

IC-705はポータブル機なので充電バッテリーが装着されています.その充電は外部の13.8VやUSB(micro B)から行うことができます(もちろん専用の充電器もあります).たいていは家で使うので,充電→放電→充電 を繰り返してバッテリーの寿命を縮めるよりも家にいるときは外部電源を接続して使用しよう,ということで電源を購入しました.

IC-705だけなら13.8V 5Aの容量があればじゅうぶんですが,私は別の無線機の購入も視野に入れていたので大きめの容量のものにしました.購入したのは ALINCO の DM-330MV という型番の 32A容量のスイッチング電源です.

以前はアマチュア無線のとくにSSBモードなどでの利用ではシリーズ電源しか考えられなかったのですが,今回,電源の小ささに惹かれスイッチング電源にしました.この機種はスイッチングの周波数を可変できるようです.スイッチングノイズが無線機の受信周波数と重なったときにはこの機能を使って受信音を聞きやすくすることが出来る,という触れ込みです.

なおこの機種の裏面の陸軍ターミナルについて気づいたことを独立した記事にしています.

電源 ALINCO DM-330MV - ブログ JO1MMI (hatenadiary.com)

 

IC-705用シガープラグコードの製作

IC-705に使用できるシガープラグコードを製作しました.車持ってないけど.DM-330MV にシガーソケットが付いているし,あるいは何かの非常事態に発々やガスボンベ式発電機に繋ぐこともあるでしょう,車持ってないけど.

材料は以下です.

  • シガープラグ(山本無線 電材店 で購入,ヒューズなし)
  • DCプラグφ5.5X2.5mm(マル信 MP-122CF フォーク端子型DCプラグ)
  • ヒューズケース(矢崎総業 中継型ヒューズホルダー FH-35)
  • 0.75sqケーブル

IC-705に接続できるDCプラグは電子工作でよく使われる 2.1ではなく2.5です.マル信のがいい感じでした.今回使用したヒューズケースのヤザキ FH-35 はIC-705付属のケーブルに採用されているものによく似ています.いずれも一般的な部品なので,多くの電子部品店で購入することが出来ると思います.

IC-705に付属している電源ケーブルと同じようにヒューズは両切りで入れました.

参考リンク:

 

 

持ち運び用電源に USB-PD対応モバイルバッテリー

IC-705はポータブル機なので充電バッテリーが装着されています.が,バッテリー駆動では電波の電力が5Wに制限されます.8.4Vですしね.外部から13.8V 3Aを供給してやれば10Wの電波が出せます.

  • 以前は車用のバッテリーを使ったものですが,持ち運ぶにはちょっと重い
  • アマチュア無線用に 13.8Vを供給するバッテリーが売られていますが,かなり高い

スマホやパソコンを充電するためのモバイルバッテリーで,5Vだけではなく高い電圧を出すように規格化されたものがあるので,それを利用します.

USB-PD規格というのがそれで,シリアル通信でデバイススマホやPC)と電源(モバイルバッテリー)がネゴシエーションして最適な充電電圧・充電電流を設定してから充電を行うものです.なお端子形状はUSB type Cですが,USB type Cの口が付いているからといって必ずしもUSB-PDに対応しているとは限らない,また,電源側がデバイスの要求を満足できるだけの能力を必ずしも持っているとは限らない,というところが機器選びの難しさに繋がっています.ネゴだけして要求の電圧を引っ張り出すのがトリガーデバイスです.ケーブルと一体になって売られているものもあります.

トリガデバイスやトリガケーブルはネゴシエーションするだけです.5Vとか9Vとか12Vとか15Vとか20Vの出力電圧を整える仕事(昇圧だったり降圧だったり)は電源側が行っています.トリガデバイスにはDC-DC機能はありません.

 

それにしてもUSB-PDの 9/12/15/20V の電源ラインナップは魅力的です.ひとつの電源でトリガケーブルを変えるだけで電圧を切り替えられるわけです.ラジコンやロボットで利用が始まっているようです.シンセでも使っている事例を見た気がします.エフェクタの電源にも良いかも知れません.ということで9Vのトリガも購入してありますので, そのうちに試してみたいですね.

 

IC-705用USB-PDトリガ・ケーブルの製作

トリガデバイスはネゴって要求電圧を引き出しますが電流に関してはよくわかりません.安全のためにヒューズを入れることにしました.市販のトリガーケーブル,とくにアマチュア無線機用としているものでもヒューズが入っていないようです.供給能力に上限もあるしモバイルバッテリー側で安全機構が働くだろうとも思いますが,リポ電池のエネルギー密度や故障時の動作が不明なこともあり,気になってしまったので入れています.ちょっとかっこ悪くなりました.

材料は以下です.

  • USB-PDトリガデバイス(シリコンハウス共立 PDC004 12V品,15V品)
  • DCプラグφ5.5X2.5mm(マル信 MP-122CF フォーク端子型DCプラグ)
  • ヒューズケース(サトーパーツ F45 中継型 バヨネット式 125V-7A 適合)
  • 0.75sqケーブル

DCプラグは前述と同じ マル信 MP-122CF です.できるだけコンパクトにしたかったためヒューズケースには少し小さめのものを使用しました.ミゼット管ヒューズですが,IC-705付属のケーブルと同じく4Aのヒューズを両切りで入れました.

またトリガデバイスは12V品と15V品のふたつを用意しました.IC-705としての要求電圧は 13.8V±15% となっているのでいずれも動作範囲内です.実運用しての発熱や出力電力低下を考慮して選ぶのが良いでしょう.

 

出来上がった各種ケーブルが以下の写真です.左からシガープラグケーブル,12Vトリガケーブル,15Vトリガケーブル,一番右が最初に作った15Vのトリガケーブルです.

赤黒ケーブルは 0.75sq.キャプタイヤ(一番最初に作ったもの)は中身は 0.3sq なので電流容量的にはそぐわないかもしれません.しかしUSB-PDケーブルの太さがそれほど太くないことを考えると心配しても仕方ないのかもしれません.

https://i.gyazo.com/0996dc9815ef2b7521ba75728faff32c.png

 

前節で

電源側はデバイスの要求を満足できるだけの能力を必ずしも持っているとは限らない

と書きました.手元のAnkerの充電器(モバイルバッテリーではない)で試験したところ12Vのトリガには対応していませんでした(9Vが出力される).

モバイルバッテリーを購入するに当たって調べ,以下の機種では 12V,15Vいずれもトリガできました.

 

購入した RAVPowerのモバイルバッテリーはPD端子とUSB-A端子が立ち上がっています.PDからトリガデバイスを介してIC-705に,USB-A端子からRaspberry Piに電源を供給することができ,FT8移動運用に便利しています.

 

IC-705とコンピュータ

IC-705を入手して,パソコンとどう繋ぐかというのははじめのうち試行錯誤でした.
今は実際の手順をスクリーンショットも含めて詳説しているブログも多く出てきたので,本ブログで細かく書くこともないと思いますが,「これができた」という事実をインターネットの片隅に置いておきたいと思います.

IC-705とWindows

まあ,これは記事を書く人がいっぱいいるでしょう.私のアクティビティは次のとおりです.
IC-705+Windows10 で WSJT-X を動かすことができました.リグコントロールは WSJT-X にやらせているため,IC-705のCI-Vアドレスは IC-7300のものを騙らせています.
他には kgfax で気象FAXの受信をしました.IC-705の録音機能を利用して,アンテナを展開できる別の部屋で受信・録音して,Windows PCに持ち込んでの kgfax でした.
同じやり方で MMSSTV で,昨年末の ARISSイベントを,時間を狙って受信して MMSSTV でデコードしました.
他にAGWTracker/agwpe/soundmodemを用いてGPSデータを含むパケットをデコードしてみることができました.

IC-705とMac

OSはMojaveだったと思います.WSJT-Xを動かすことができました.リグコントロールは WSJT-X にやらせているため,IC-705のCI-Vアドレスは IC-7300のものを騙らせています.
MultiMode というソフトで気象FAXを受信したりしました.送信や他のモードは試していません.

IC-705とRaspberry Pi Zero(WH)

IC-705をPi Zeroに繋いで lsusb すると以下が見えました.ロットが変わると違う結果かもしれません.

  • TIのハブ
  • Prolific Technology
  • TIのPCM2901 Audio Codec

FTDIやPLのVCPドライバはLinuxカーネルにすでに取り込まれているということを聞いたことがあります.オーディオはUSB-AudioクラスでOSレベルで対応しています.したがってドライバのインストールは不要でした.
Raspberry Pi OS(32bit) に WSJT-X を入れてDEC/ENCすることができました.リグコントロールは WSJT-X にやらせているため,IC-705のCI-Vアドレスは IC-7300のものを騙らせています.
ただPi Zeroは非力でした.Windows PCが4メッセージをデコードしているときに,Pi Zeroだと1メッセージしかデコードしないといった状況がありました.

IC-705とRaspberry Pi4(8GB)

Raspberry Piの可能性を感じたのでRasPi4を買ってきました.(ソースコードを読んでから判断するべきですが)メモリが多いほうがWSJT-Xのデコード性能が高いかもしれないと考え8GB品を買ってきました.ちょっと高いけれど,メモリが多いことは良いことだし…
ドライバに関してはPi Zeroと同じ状況です.要するにドライバのインストールは不要です.
Raspberry Pi OS(32bit) に WSJT-X を入れてDEC/ENCすることができました.デコード性能は手持ちのWindowsPCと大差なく感じました.WSJT-Xは手動で入れましたが,それ以外は AmRRON scriptを使用しました.
リグコントロールを FLRig で行います.IC-705のCI-Vアドレスは IC-7300のものを騙らせています.FLRigとWSJT-Xが通信してコントロールできています.WSJT-X直接でも良かったのですが,FLdigiなどのソフトの親和性を考慮しました.なにより QSSTV は FLRig経由でないとダメでした.
FLRigが内部で呼んでいる hamlib はオープンソースなので,IC-705の設定をパッチしても良かったのですが,CMake のバージョンが合わない(しかもバージョン巻き戻しもできない版)ようなメッセージを吐いてビルドできませんでした.いや,AmRRONスクリプトを動かす時点ではmakeしているっぽいので,出来るはずなのですが,日和りました.
RasPi4 はヘッドレスで設定しています.有線LANは家庭内のLANに参加させ,WiFiではアクセスポイントを形成しています.有線ではPCからsshVNCで,無線ではiPadからVNCでRasPi4にアクセスできます.移動運用するときはiPadで操作できます.WindowsのノートPCを持っていないので助かりました.
なおIC-705の内蔵GPSのデータをRasPi4に送り込んで(IC-705側での設定が必要です),RasPi4の時刻設定をしています.RasPi用にGPSドングルとRTCモジュールを買いましたが無駄になりました.IC-705/GPS接続のないときはLANでNTPサーバに同期させています.
オーディオとCATコントロールGPSデータがUSB1本で通ってしまうIC-705,素晴らしい.
GPS同期の時刻やZulu time(UTC),グリッドロケータ,LAN状況,CPU状況,ソフトウェアの起動状況をダッシュボード表示してくれる Conky を使っています.Conky は Linux でよく使われる表示手段のようですが,KM4ACKがアマチュア用に作った設定があって,格好いいのでほんの少し手を加えて使用しています.
IC-705+RasPi4,実際の使用にあたっては「USBケーブルをRasPiに接続してIC-705の電源を入れてからRasPiの電源を入れる」など,手順を確立しておいたほうが良さそうです.使う段階でWSJT-XのオーディオI/Fを切り替えるのは面倒です.

移動運用のときはどんな感じか,電源はどうしているか,といった件は別記事に書きたいと思います.

以上,自分が取り組んだことを書きました.これらは実動の実績ありということです.ぜひみなさんの使い方,こんなことができた・できるよというのを教えていただければ幸いです.

「アマチュア無線の社会貢献活動での活用」

総務省|電波法施行規則の一部を改正する省令案等に係る意見募集
というのが出ていて,twitterでは多くの意見が表されています.自分のTLでは反対意見が多いですが,それはそういう人を多くフォローしているからかもしれません.アマチュア無線の現況を憂い,興味を持つ人が増えるだろうとして賛成の人もたくさんいると思うわけですが,自分の観測範囲ではあまり見られません.
さて私自身は反対の立場です.この改定を悪い方向にいくらでも拡張できるように読めるからです.特にアマチュア業務の定義を損ねていますし,セキュリティホールになっています.そしてこの改定は非可逆です.一度開いたらパッチで塞げない,そういう性質のものです.
この改定が通ったら10年から30年うちにアマチュア無線の様相はすっかり変わり,30年後にアマチュア無線が残っているかどうか… そういう懸念があります.
30年後にアマチュア無線を残したい.

(((このあたりたくさん呟いているので,あとで整理して,自分の40数年のアマチュア無線との関わりも踏まえて感じていることをあとで追記するかもしれません)))


パブリックコメントに書いた内容は以下.

続きを読む

CUIでCI-Vコントロール

はじめに

WSJT-X とか MMSSTV とか,リグコントロールの入ったアプリケーションを使い終わったあと,リグが受信している周波数を144とか430のFM Call channelにしたくなることがある.
こういった用途に対してGUIまで組む気はないけど,ちょっとしたコマンドでCI-Vの先のrigをコントロールしたいという気持ちがあり,検討した.
rigctl をinstallすれば良いのかもしれないが,標準コマンドやスクリプト言語だけでなんとかならないかなというモチベーションである.

環境

Windows10 に WSL で Linux が入っている環境を前提とする.自分の環境では Ubuntu 18.04LTS がインストールしてある.
自分の環境では制御対象は IC-9700 である.これに合わせてデバイスドライバをインストールしてあって,CATコントロール系のデバイスは COM7 として設定されている.Windows で COM7 となっているデバイスに対応する Linuxバイスは /dev/ttyS7 らしい.

手順

基本的な手順は stty でシリアルを config して,制御の内容を echo したものをデバイスにリダイレクトすることでリグコントロールのバイナリデータを送る.
echoでバイナリを扱うには,-e オプションでエスケープするか,hex の文字列を xxd を通してバイナリに変換する.

この手順に従って実験したものが以下.周波数を変更することができた.以下でIC-9700のCI-VアドレスはA2hとなっている.PCのCI-VアドレスはE0hとなっているがこれに合わせることが必須なのかはわからない(PCが複数あるときの識別用かもしれない).

$ sudo chmod o+rw /dev/ttyS7 
$ stty 19200 -F /dev/ttyS7 raw -echo
$ echo -e "\xFE\xFE\xA2\xE0\x00\x00\x00\x29\x44\x01\xFD" > /dev/ttyS7 
$ echo fefea2e0000000294401fd | xxd -r -p > /dev/ttyS7  
$ echo fefea2e0000000003304fd | xxd -r -p > /dev/ttyS7 # 433.000.000MHz

あとは必要な設定を書き連ねて実行可能なスクリプトにしてしまえば良い.その際,設定内容をハードコードするもスクリプトの引数にするもご自由で.自分は CI-V アドレスも含めてハードコードした(以下).もう少し汎用にするならば,CI-Vアドレスを変数にする,周波数とモードを引数で与える(その場合は awkあたりで処理するだろうか)といった事が考えられる.
といいつつ今回作ったのは投げつけOnlyである.なにかエラーが起こっても対処できない.エラーに対処したい人,rigからの反応に応じて制御を変えたい人はそれぞれ工夫してください.

以下のスクリプト名を例えば goto433FM とする.

#!/bin/bash

stty 19200 -F /dev/ttyS7 raw -echo
# 433.000.000MHz
echo fefea2e0000000003304fd | xxd -r -p > /dev/ttyS7
# FM, Fil1
echo fefea2e0010501fd       | xxd -r -p > /dev/ttyS7

このスクリプトWindowsのコマンド・プロンプトから呼び出すことができる.もちろんpermissionを設定しておくこと.

C:\Users\Me>wsl /home/Me/ham/goto433FM

この塊をショートカットにして適当なところに置けば完了である.

f:id:stevet:20201113095021p:plain
CI-Vコントロール

WSJT-X や MMSSTV などの周波数リストを持ってrig制御を行うようなアプリケーションを終了して置き去りになってしまった周波数・モード設定を本ショートカット一発で設定することができるようになった.

電源 ALINCO DM-330MV

IC-9700に供給することを考慮して,大きめの容量の電源を購入した.購入したのは ALINCO の DM-330MV *1という型番の 32A容量のスイッチング電源である.

 

ALINCO 直流安定化電源 スイッチング式 32A DM-330MV

ALINCO 直流安定化電源 スイッチング式 32A DM-330MV

  • 発売日: 1999/06/18
  • メディア: エレクトロニクス
 

 

やはりスイッチング電源は容量の割に小さい.この機種はスイッチングの周波数を可変できるようで,スイッチングノイズが無線機の受信周波数と重なったときにはこの機能を使って受信音を聞きやすくすることが出来る,という触れ込み.

DM-330MVの裏面には陸軍端子が立ち上がっている.使用するケーブルの太さと端子径によって圧着端子を選択する必要があるが,径はノギス実測でφ5.9だったのでφ6の圧着端子が妥当と判断した.IC-9700 付属のケーブルは 2sqぐらいで,R5.5-6 が適当だった.なお IC-705付属のケーブル(0.75sqぐらい)では R3.5-6 の圧着端子を選択した.購入を考えている方の参考になれば幸いです.

 

*1:フォントの0が"O"(オー)に見えるが DM-33OMV ではないとのこと